3. 作動流体の選定
さて、作動流体の選定指針に議論を進めよう。FSWの塑性流動が金属の高温変形を基調としていることはよく知られたことである。攪拌部に現れる微細結晶粒組織は動的再結晶によるものであることがその端的な証左である。金属の塑性変形は転位と呼ばれる1次元の格子欠陥のすべり運動が重要な役割を果たしており、転位の挙動を反映して、変形温度、ひずみ速度、そして材料ごとに異なる応力ひずみ線図が得られる。これは、弾性変形と塑性変形の2領域あり、塑性変形が始まる点(ひずみと応力)を降伏点と呼ぶ。FCC金属などでは明瞭な降伏点を示さないので、便宜上0.2%耐力を代用する。0.2%耐力は温度依存性を持ち、例えば工業用純アルミニウム(A1100-H18)の場合、25℃で150MPaであるが370℃では11MPaまで低下する13)。すなわち、摩擦攪拌接合時のツール近傍の温度が純アルミニウムの場合で500℃程度まで上昇する接合条件においては、固体でありながら極めて軟化した状態で塑性流動するということを意味する。
これらのことを踏まえて、透明作動流体の要求される性質を考えてみよう。金属の降伏挙動を模擬するためには、流体に働く力とそれに呼応する流体の「変形」に非線形性が現れる必要がある。すなわち、ある値の力までは「弾性的」な応答をして、その閾値を超えると異なる傾きの応答関数で表現される応答挙動を示す必要がある。前述のニュートン流体ではこの要求を満足することができない。したがって、非ニュートン流体が候補となるが、非ニュートン流体の中でも比較的金属材料の降伏挙動に近い振る舞いをするものが擬塑性流体である。
このように必要条件を上げて絞り込んでいくと、ある種の流体が候補として残る。端的に言えば、マヨネーズとケチャップあるいはバターといった我々が日常的に使っている食材などがこれに該当する。しかし、これらは不透明であり、我々が目的とする作動流体としては不適当である。
実際の可視化研究に採用してきた流体は、図3のような粘性特性を示す。この流体の成分は記載できないが、図4(動画)に示すように比較材である麦芽糖水溶液(水あめ)と比較してその流動性の低さ、すなわち先に述べたバターのような挙動を示す流体であり、これは我々の研究室で開発されたものである。

図3 作動流体の粘度特性(水あめとの比較)
図4(動画) ニュートン流体(左側)と擬塑性流体(右側)の比較
(図をクリックすると動画が再生します)
4. 流動観察システム
図5に塑性流動可視化システムの概略と実物を示す。本システムは、透明容器に入った作動流体、その容器を一方向に動かすステージ、作動流体に対してシート状の光を照射する光源、3方向から流動を観察するビデオカメラ、さらに後述する3次元造形機により作製したFSW模擬ツールとそれを取り付けて回転ならびに上下動機能を有するユニットからなる。なお、他の光を遮るために装置は撮影時には暗幕で覆われる。なお、波長の異なる2種類のレーザ光を用いる場合は、図6に示したようバンドパスフィルタをカメラに装着して、それぞれ異なる位置(前進側:ASと後退側:RS)での流動挙動を分離して観察できる。

図5 3方向からの流動観察システム模式図と装置外観

図6 2色レーザによる2断面可視化像の分離取得
この装置で撮影された映像は、パソコンにリアルタイムに取り込まれて、ディスプレイ上で3方向の映像を同時に確認できる。録画された映像に対して、専用の画像計測ソフトウエアを用いて粒子画像流速測定法(PIV;Particle Image Velocimetry )に供することができ、この画像解析によりツール周囲の流体の速度ベクトルを算出することができる。









