相談例50.ステンレス鋼の曲げ試験片表面のデコボコについて
ステンレス鋼のガスシールドアーク溶接立向(裏当て金付)の技量資格を得ようとして、予備試験をしたところ、表曲げ及び裏曲げ試験片の表面が、次のような状態になりました。
・表曲げ試験片 表面全体が、デコボコして柚子の皮のようになっている。

・裏曲げ試験片 ビード中心部にくぼみ(溶接線方向と平行)が生じている。

なお、何れの試験片表面にも、ルーペ観察(10倍)で割れやピットなどの表面に開口する欠陥はありませんでした。この状態について、次の事を教えて下さい。
①溶接欠陥となるのでしょうか? 溶接欠陥とすれば何と言う欠陥ですか?
②発生要因と防止対策はどうなりますか?
③ステンレス鋼特有の状態でしょうか?
回答
オーステナイト系ステンレス鋼の溶接金属は大きな柱状デンドライト組織になっています。このような組織では、組織の方向により伸び特性が異なります(伸びの異方性)。曲げ方向に対して、柱状デンドライト組織の向きは一定でなく、いろんな傾きを持っていますので、伸びが不均一になります。この結果、表面がデコボコになったり、へこみが生じたりします。表面に開口欠陥がありませんので、曲げ試験は合格で問題ありません。
質問への回答は次の通りです。
①これは溶接欠陥ではありません。
②溶接金属が大きな柱状デンドライト組織になっているために生じます。この組織を防止する事はできませんし、溶接欠陥ではありませんので、対策は不要です。
③溶接凝固完了後、冷却時に変態をしない材料特有の現象です。オーステナイト系ステンレス鋼はこの種類に入ります。