相談例51.ティグ裏波溶接における溶落ちについて
SUS304鋼製容器(板厚2〜3mm)をティグ溶接で製作する場合、裏波溶接(ギャップ無)で、溶落ちやアンダーフィルを生じることがあります。この発生原因及び防止対策を教えて下さい。
回答
原因と防止対策は次の通りです。
1. 溶落ち及びアンダフィルの原因
・下向溶接や上向溶接では、厚板を裏波溶接することが出来ません。これは溶融池の体積が大きく(溶融池が重く)なると、溶融金属の表面張力で溶融池の重さを保持出来なくなるためです。
・これを単純化したモデルで説明すると、次のようになります。
溶融池を近似的に、円柱(半径(ビード幅の半分) r、高さ(板厚) t)と仮定します。
溶融池の重さは、π・r2・t・(密度)・(重力加速度) となり、この重さを裏ビードの表面張力で保持しなければなりません。
裏ビードの表面張力は、(裏ビードの円周長さ)×(溶融金属の表面張力)ですので、2π・r・(溶融金属の表面張力) となります。
この両者を等号で結ぶと、
π・r2・t・(密度)・(重力加速度) = 2π・r・(溶融金属の表面張力)
となり、簡略化すると
r・t =(2×溶融金属の表面張力)/((密度)×(重力加速度))= 一定値
が得られます。
すなわち、板厚 t が厚くなると、ビード幅 2r を小さくしないと溶落ちが生じます。溶落ちを生じさせないためには、ビード幅を狭くして、溶融金属の量を小さくする必要があります。
溶融池の重さは、π・r2・t・(密度)・(重力加速度) となり、この重さを裏ビードの表面張力で保持しなければなりません。
裏ビードの表面張力は、(裏ビードの円周長さ)×(溶融金属の表面張力)ですので、2π・r・(溶融金属の表面張力) となります。
この両者を等号で結ぶと、
π・r2・t・(密度)・(重力加速度) = 2π・r・(溶融金属の表面張力)
となり、簡略化すると
r・t =(2×溶融金属の表面張力)/((密度)×(重力加速度))= 一定値
が得られます。
すなわち、板厚 t が厚くなると、ビード幅 2r を小さくしないと溶落ちが生じます。溶落ちを生じさせないためには、ビード幅を狭くして、溶融金属の量を小さくする必要があります。
・溶落ちに至らなくても、裏波ビード幅が大きくなると、アンダフィル(表面ビードの凹み)が生じます。これは溶接前後で体積が変化しないため、裏波が出た分、表面側の溶融金属が不足するためです。
2. 防止対策
2.1 溶落ち
溶融金属が多くなると溶落ちが生じ易くなりますので、裏まで溶込む溶接条件で、溶接入熱を下げて(溶接電流を下げ、溶接速度を速くする)、ビード幅を狭くして下さい。
2.2 アンダフィル
裏波を出す限り、いくらかのアンダフィルは避けられません。アンダフィルが許容されない場合には次の対策が有効です。
①溶加材を添加する。
②インサートを用いる。(溶接用語辞典 第2版 参照)
なお、開先面の食違いやルートギャップが大きくなると適正溶接条件範囲が狭くなりますので、適切な公差を設定し、開先合わせ精度を高くして下さい。