WE-COM 最新号トップへ(WE-COM会員のみ) | この号のトップへ | WE-COM バックナンバートップへ

インバータ出力制御とデジタル制御による
溶接電源の高機能化

3. ミグ、マグ、炭酸ガスアーク溶接

消耗電極式のガスシールドアーク溶接、すなわち GMA(Gas Metal Arc)溶接用の溶接電源の高機能化に関して紹介する。インバータ制御回路を採用した GMA 溶接電源では、その高速な出力制御により様々な電流・電圧波形を作り出す波形制御が可能になった。

3.1 ハードウェアに依存する電源性能の波形制御による模擬

その波形制御の一つとして、電源のハードウェアに依存する電源の性能を波形制御により実現できるようになったことが挙げられる。具体的には電流の変化しやすさを左右する直流リアクトルのインダクタンスを、電子制御による電流変化速度調整という形で模擬することが可能となった。図2は調整時の電流波形の模式図とスパッタの飛散量の変化を示している。各写真の明るい部分がアークを示し、そこから放射状に出ている線がスパッタの軌跡である。この軌跡線の数がその時のスパッタ量を意味し、電流変化速度を速くするとスパッタが増え、遅くするとスパッタが減っている。この実験は波形制御だけで電流変化速度を調整しており、出力制御の高速化により一台の溶接電源で様々な直流リアクトルの効果を実現できていることが分かる。

直流リアクトルのインダクタンス以外にも、アーク長の自己制御作用を左右する外部特性も、同じく電源のハードウェアに依存する性質であり、溶接の種類ごとに最適な値は異なる。波形制御を活用することで一台の溶接電源で複数の外部特性の効果を実現することができ、様々な溶接ワイヤやシールドガスでの溶接を一台の電源で担うことが可能となった。また、電源を構成する部品の公差に基づく個体差も、出力制御により補正することが可能となり、製品品質のばらつきを抑えることにも貢献している。


図2 波形制御による直流リアクトルの模擬

3.2 低スパッタ制御

スパッタの発生形態にはいくつか種類があるものの短絡開放時に発生するスパッタが最も多い。短絡開放時のスパッタ発生量の低減を目的に、短絡開放のタイミングを予測して直前に電流を急減することで短絡開放時のスパッタを低減する低スパッタ機能が開発された(図3)。


図3 低スパッタ制御のメカニズム

動画1は低スパッタ制御を用いた短絡溶接時の溶滴移行を高速度カメラで撮影した映像である。動画から分かるように、短絡開放時のスパッタ発生がみられない。


動画1 くびれ検知を用いた低スパッタ溶接の高速度ビデオ
(図をクリックすると動画が再生します)

この低スパッタ溶接法では短絡開放を事前に予測する必要があり、その方法として電圧変化による橋絡部(繋がった溶融金属部分)のくびれ検知が開発された。橋絡部は、くびれて細くなると電流の経路が狭くなるため、電気抵抗は高くなる。この電気抵抗の上昇に伴う電圧上昇をトリガーとしてくびれを検知している。この溶接法では、橋絡部がくびれ始めて破断するまでの極短い時間にくびれを検知して電流を急減する必要があり、非常に高速な演算と波形制御が求められるが、高速なインバータ出力制御により実現された。


3.3 ワイヤ送給制御を利用した短絡移行制御

近年あらたな溶接制御の考え方として開発されたのがワイヤ送給制御を利用した短絡移行制御溶接法である。一般的な電流、電圧の変化による溶接現象の制御に加えてワイヤ送給速度も変化させることで、溶接現象をコントロールし、幅広い条件での安定性と極低スパッタを実現した溶接法である。前述の低スパッタ制御ではくびれ検知後に電流が急減するのだが、そのために橋絡部にかかる電磁力が小さくなり短絡開放を妨げてしまうことが課題であった。ワイヤ送給制御を利用した短絡移行制御溶接法では、動画2の高速度ビデオのように、短絡期間にはワイヤを逆送して引き上げることで短絡開放させている。機械的に短絡開放を制御するため、くびれ検知後に電流急減しても短絡開放を妨げることなく、安定に低スパッタで溶接できる。図4に前述の一定送給での低スパッタ溶接法と、ワイヤ送給制御を利用した短絡移行制御による低スパッタ溶接の、スパッタ発生量を比較した結果を示している。炭酸ガスアーク溶接における、YGW12 相当で 1.2 mm 径の軟鋼ソリッドワイヤを用いた溶接時間 1分間あたりの結果である。スパッタ発生量は全ての測定結果において 0.1g/分より少なく、従来のワイヤ一定送給での低スパッタ溶接法と比べると 1/2 以下までスパッタ発生量を抑制している。


動画2 ワイヤ送給制御の有無による短絡移行の高速度ビデオ比較
(図をクリックすると動画が再生します)


図4 スパッタ発生量の比較

このプロセスは、1973 年に報告された「機械的短絡移行アーク溶接法」2)にその起源を求めることができる。市販可能なモータの開発に至らず、当時は実用化できなかったが、電源の出力制御の進化に合わせて、送給モータの制御速度向上と小型化が進み、2000 年以降になって本手法と同じ概念の溶接法が開発されるようになった。


(WE-COM会員のみ)