3.4 パルス溶接
パルス溶接は、短絡によるアーク消弧がないため、同じ平均電流でも短絡移行条件より平均アーク電圧は高く、入熱も高い傾向にあり薄板から中板まで深い溶け込みや広いビード幅を得るには有効な場面も多い。短絡移行を用いない溶接のため、前述の短絡開放時のスパッタは理想的には生じないことが特徴である。
パルス溶接はインバータ制御電源の登場以前に開発されていたものの、鉄鋼材料のマグパルスで安定した1パルス1ドロップを実現するにはピーク期間が10ms程度なのに対し、秒間300回程度のサイリスタ制御の制御回数ではピーク電流期間などのパルスパラメータを細かく調整することはできなかった。トランジスタ-チョッパ型溶接機によって、任意のピーク電流期間の制御ができることが示され、その直後のインバータ制御電源の出現で、パルス溶接は飛躍的に性能が向上した。
さらに、近年では演算素子の向上により、インバータ制御による高速制御と合わせて複雑な波形形状が実現できるようになった。そこで、材料やシールドガス毎に最適化されたパルス溶接が開発された。例えば、軟鋼パルス溶接ではシールドガスの炭酸ガス比率が高いと、スプレー化の臨界電流が上昇するためスプレー移行しにくくなるという課題に対し、図5のようにピーク電流を二段階にすることで20〜30%の幅広い炭酸ガス混合比率のシールドガスにおいて、安定でスパッタを少なくするパルス溶接法が開発された。動画3(a)は 80%Ar+20%CO2 の一般的な混合ガスにおいて、従来波形の軟鋼パルスでの溶滴移行を高速度カメラで撮影した動画であり、溶滴移行が安定していることが分かる。動画3(b)は同じパルスパラメータで 70%Ar+30%CO2 ガスをシールドガスとした時の溶滴移行だが、溶滴移行は不安定化していることがわかる。一方でピーク電流を二段としてパルス波形を使用すると、炭酸ガス混合比率の高いシールドガスでも動画3(c)のように溶滴移行を安定させることが可能である。その他、溶融時の粘性が高いステンレス鋼ワイヤに対して、溶滴の分離を促すことを目的にピーク期間にピーク電流を上昇させる波形の開発や、アルミニウムの溶滴移行時に発生する小スパッタを抑制する曲線波形の開発など、様々な条件に対して個別の波形形状を考案、搭載する電源が開発された。

図5 幅広いCO2比率の混合ガスに対応する二段ピークの軟鋼パルス波形
動画3 パルス溶接における溶滴移行の高速度ビデオ比較
(図をクリックすると動画が再生します)
この他、パルス波形にさらに 30Hz 程度までの低周波パルスを重畳させるパルス溶接も開発されている。パルス出力を低周波に変調することで溶融池を振動させ、気泡の排出による欠陥低減や結晶粒微細化による耐割れ性向上にも効果がある。また、ティグ溶接のようなうろこ状の意匠性のあるビード外観を得ることも可能である。
3.5 交流パルス溶接
直流パルス溶接では、ワイヤ電極が常にプラスだが、交流パルス溶接ではその名の通りプラスからマイナス、マイナスからプラスへと極性が周期的に切り替わる(図6)。以降、ワイヤがプラスとなる極性配置を EP、ワイヤがマイナスの場合を EN と呼ぶ。EN の極性配置では、ワイヤの溶融速度が向上するという特徴がある。図7はΦ1.2mm の A5356 溶接ワイヤにおける、各 EN 比率での電流とワイヤ溶融速度の関係を示したグラフである。この関係性を利用し、EN 期間でワイヤ溶融を変化させ、EP 期間でアークの安定性を維持するのが交流パルス溶接の基本的な考え方である。インバータ制御式の交流溶接電源は、直流溶接電源の構成に加えて二次側にもインバータ回路を搭載し、極性を切り替えている。そのため、EP と EN の比率を自在に変更することができ、ユーザーが電源のパネル操作で任意の EN 比率(=Sen/(Sep+Sen))を選択できるようになっている。また、交流溶接では、溶接電流や電圧を絶対値で設定するため、制御回路にフィードバックする電流・電圧情報を絶対値に変換する回路またはソフト上の仕様が必要となることも交流電源の特徴である。

図6 交流パルス溶接の波形模式図

図7 各EN比率における電流とワイヤ溶融速度の関係
3.6 大電流埋もれアーク溶接
電源の出力制御により、高電流での埋もれアーク溶接を安定化し、厚板を高能率に溶接することを可能とした技術である。埋もれアーク溶接では、ワイヤ先端位置が母材表面よりも深い位置にある状態でアークが発生している。埋もれアークは母材のより深い部分にアークまたは溶滴移行による入熱を伝えることができるため、深い溶け込みを得るのに有利である。一方で、溶融池が不安定化しやすいという問題があるが、溶融池を安定化する技術として電圧振幅制御が開発されている。安定して大電流で溶接するにあたり、500A 出力の溶接機を2台接続し、同期させることで最大 1000A 出力できる仕組みが開発されている。電圧振幅制御においても2台の電源は、同期して出力を振幅させ、高電流での溶融池安定化が実現されている。この溶接プロセスに関しては、過去に本誌でも取り上げているため、詳細に関してはバックナンバーを参照いただきたい3)。なお掲載後は、大電流埋もれアーク溶接の適用範囲拡大を目指して、軟鋼ソリッド以外のワイヤでのプロセス開発も進められている。図8はメタル系フラックス入りコアードワイヤに大電流埋もれアーク溶接を適用した結果であり、表2にはその溶接条件を示している4)。報告によると電圧振幅制御による溶融池の安定化効果は、フラックス入りコアードワイヤを使用した場合にも有効であることが示されている。溶融池の安定化により、板厚 12mm の突き合わせ継ぎ手が1パスで、板厚 19mm であっても2パスで溶接できることが報告されている。大電流の厚板溶接において、フラックスによる溶融金属性能のコントロールが期待できる。

図8 メタル系フラックス入りコアードワイヤを用いた大電流埋もれアーク溶接結果
表2 メタル系フラックス入りコアードワイヤを用いた大電流埋もれアーク溶接条件










