4. ティグ溶接
タングステン電極を利用した非消耗電極式溶接のティグ溶接(TIG:Tungsten Inert Gas)について説明する。インバータ制御による細かな出力制御により、2A から 500A までの幅広い電流設定と、10A 以下の小電流域で0.1A刻みの細かな電流設定が可能となっており、厚板から極薄板まで、薄板では微妙な板厚に対し最適な電流が設定できる。
4.1 直流パルスティグ溶接
低電流ではアークに働く電磁力が小さく、そのためにアークがふらつきやすい。そこで、数十〜数百Hzの中周波パルスティグを使用するとアークが緊縮し、アークのふらつきを抑えることができる。近年では、汎用のティグ溶接電源で1kHz近くのパルスティグ溶接ができる電源も販売されている。中周波パルスのアーク硬直性向上が効果を発揮する低電流域でより細かな出力設定ができるよう0.1A刻みの緻密な設定が可能な電源もある。周波数を上げることでメリットが出るものの、周波数が高くなるとアークから発生される音が非常に耳障りになり、作業環境の悪化につながる。インバータ制御により正弦波状の電流波形が実現でき、緩やかな電流変化でアークの動きも緩やかとなり音を和らげる機能も開発されている(動画4)。
動画4 パルスティグ溶接における矩形波と正弦波によるアークの挙動比較
(図をクリックすると動画が再生します)
4.2 交流ティグ溶接
交流ティグ溶接は、アルミニウムなどの厚い酸化被膜が溶接を阻害する材料に対し、EP(電極プラス)での母材表面のクリーニング効果を利用して安定して溶接する手法である。EP は酸化被膜除去に有効ではあるが、通常の炭素鋼溶接などで使用しているEN(電極マイナス)配置に比べアークの硬直性が悪いため母材溶け込みが小さく、電極消耗が激しいなどデメリットも多い。そこで、EP と EN を繰り返す交流ティグが使用される。交流ティグの電源も、インバータ回路を変圧器の二次側にも搭載することで実現している。出力だけでなく極性も高速で切り替えられることで、汎用の電源でも交流周波数を500Hz まで調整することができる。パルスティグと同様に、周波数を高くするとアークの集中性が向上し、溶け込みを得にくい交流ティグ溶接で溶け込みを向上させることが可能である(図9)。さらには、交流と直流を低周波に切り替える交直切替ティグ溶接ができる溶接電源も開発された。高い交流周波数と交直切替ティグ溶接の効果を組み合わせることで、通常のAr100%でありながらAr70%+He30%混合ガス並みの溶け込みが得られることも報告されている5)。(図10)

図9 交流周波数によるアーク集中性と溶け込みへの影響

図10 純Arガスを用いた交直切替ティグ溶接とHe混合ガスを
用いた交流ティグ溶接の溶け込み比較
5. プラズマ溶接
プラズマ溶接は、ティグ溶接と同様にタングステンを電極に使用する非消耗電極式の溶接だが、電極とガスノズルとの間のプラズマノズルとプラズマガスによる冷却で、アークを細く絞ることで貫通力を得た溶接法である。動画5のように、その貫通力で母材を裏までアークで貫通させたまま溶接を進めるキーホール溶接を得意とする。ノズル内でアーク放電を生じ、発生した高温のプラズマを母材に吹き付けて溶接する非移行式と、プラズマを吹き付けて溶接対象との間に通電経路が形成されると電極-母材間への通電に移る移行式がある。この時、ノズル内で発生するアークをパイロットアークという。現在の主流は移行式の電源である。
プラズマ溶接はティグ溶接と同様、外部特性は定電流特性だが、ティグに比べて高い負荷電圧に対応することが電源に要求される。さらに溶接時の出力回路の他にノズル内でアークを発生(パイロットアーク)させるための出力回路が必要であり、溶接に強く影響するガス流量計とガス流路を備えているため電源は大型になりやすい。また、旧来のプラズマ溶接は電源毎に使用できる電流域が決まっており、使用する電流域に合わせてそれぞれ電源を持つ必要があった。近年のプラズマ電源は、インバータ回路の採用により出力回路が小型化され、電源1台で 0.5A〜300A まで対応できるようになった。制御回路もデジタル化され、フィラワイヤの送給制御装置も電源に内蔵されている。
動画5 プラズマキーホール溶接
(図をクリックすると動画が再生します)
5.1 デジタル式ガス流量調整器 マスフロー
プラズマ溶接は、プラズマガスの流量で溶接対象の貫通力を調節しており、最新のプラズマ溶接電源では流量設定にデジタル式のマスフローメーターが搭載された電源もある(図11)。プラズマ溶接特有のキーホール溶接には、貫通力を上げるためにプラズマガス流量を上げる必要がある一方で、過度に流量を増やすと溶け落ちが生じプラズマ切断になってしまう恐れがある。このマスフローメーターは、プラズマ溶接で管理が重要なプラズマガスを一定の流量で安定して供給でき、アナログのフロート式と異なり数値で入力するため設定ミスが生じにくい。また、ガスの供給圧力が変動してもガス流量が変化せず溶接の再現性に優れており、ガス不足が発生するとエラーを表示する監視機能も搭載されている。

図11 プラズマ溶接電源に搭載されている流量計の進化
5.2 メインアーク移行性能向上
プラズマ溶接の特徴と言えば、キーホール溶接が可能なことである。最新のプラズマ電源はこのキーホールを検知し、ロボットや自動機に信号を出力する機能を持ち、キーホール形成のためのタイマー処理を必要とせず、スタート部から貫通溶接を実現することが可能である。その他、パイロットアークの電流値を高く設定することにより、図12に示すようにメインアークへの移行性を格段に向上させることが可能となった。プラズマ溶接では、タングステン電極がノズルの奥にあるため、スタンドオフが長くなる傾向にあり、パイロットアークからメインアークへの移行時にアークが消弧するという問題にも対応している。また、溶接終了後のエンドガスを調整することで、亜鉛メッキ鋼板溶接時の亜鉛蒸気による電極消耗を抑える機能も開発されている。

図12 メインアーク移行性能向上機能の効果










