1. まえがき
アーク溶接は、近代工業の金属加工における基幹工作技術として重要な地位を占めています。このアーク溶接作業が直面する危険有害要因には、種々の対策が講じられてきましたが、近年、溶接を取巻く環境は多岐にわたり、かつ、一層複雑になってきています。そのため、1歩間違うと重大な災害を招く危険性をはらんでいます。
そこで溶接職場に潜む不安全・不健康な要因を取り上げ、それらによって引き起こされる障害・事故及び人体に及ぼす影響並びにそれらの防護策を数回に分けて記述したいと思います。第1回の本稿では「溶接作業の安全・衛生に関する法令規則」及び「溶接作業で発生する障害及び事故」について述べます。
2. 溶接作業の安全、衛生に関する法令規制
アーク溶接作業には、特有な危険・有害要因によって引き起こされる災害及び健康障害があります。それを回避するために法令則の整備が行われていますが、その中、労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令及び労働安全衛生規則は、溶接作業を安全に行うための基本となる法令則で、これから溶接作業を行う作業者の必修(特別教育)条項などが盛込まれています。
常時、溶接作業を行う事業所では、表2.1の規制を受けることになります。ただし、表2.1に示した規制条項には、アーク溶接作業以外の他の作業にも共通する(例えば、安全衛生管理者、安全管理者の選任などの)条項は割愛してあります。
表2.1 アーク溶接に係る労働安全衛生法の規制
条項 | 項目 | 関係令則・条項 | 規定内容要旨 | |
第20条 | (事業者の講ずべき措置) 危険防止 |
安衛則注1) 第27、28、29②条 | 機械等に関する規制 | |
〃 第261、279、285、286条 | 爆発・火災等の防止 | |||
〃 第325、325②条 | 強烈な光線を発散する場所 | |||
〃 第332、335〜338、352条 | 電気による危険の防止 | |||
第22条 | (事業者の講ずべき措置) 健康障害防止 |
安衛則 第576、577条 | 有害原因の除去、ガス等の発散抑制等 | |
〃 第585条 | 立入禁止等 | |||
〃 第593、595、596条 | 保護具等、騒音障害防止用保護具、保護具の数等 | |||
第31条 | 注文者の講ずべき 措置 |
安衛則 第648条 | 交流アーク溶接機についての措置 | |
第42条 | 譲渡等の制限 | 施行令注2) 第13条 | 5号 | 防じんマスク(ろ過材及び面体を有するものに限る。) |
14号 | 交流アーク溶接機用自動電撃防止装置 | |||
第44条 の2 |
型式検定 | 施行令 第14の2 | 5号 | 防じんマスク(ろ過材及び面体を有するものに限る。) |
14号 | 交流アーク溶接機用自動電撃防止装置 | |||
第59条 | 安全衛生教育 | 安衛則 第35条 | 雇入れ時等の教育 | |
〃 第36条 | 特別教育 | |||
〃 第37、38、39条 | 特別教育の科目の省略、記録の保存、細目 |
注1)安衛則:労働安全衛生規則 注2)施行令:労働安全衛生法施行令