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シールドガスのアーク現象、溶接金属性能に及ぼす影響

愛媛大学 工学部
小 原 昌 弘

1. はじめに

シールドガスを用いる代表的な溶接方法としてはティグ溶接とマグ・ミグ溶接がある。シールドガスはその名の通り、溶接金属を大気から遮蔽し、大気との反応を防ぐことを目的で使用されるが、用いられたガスそのものがプラズマ化してアークを形成することから、シールドガスの種類によってアークの発生状況や溶滴移行状況は大きく変化する。また、その結果、溶け込み形状や溶接金属性能にも影響を及ぼすことになる。本編では、シールドガスのこれらの影響について見ていくことにする。

2. アーク溶接現象に及ぼすシールドガスの影響

2.1 アーク発生形態への影響

表11)にアーク溶接で用いられる代表的なガスの物性値を示す。アルゴンガスを基準に比較してみると、ヘリウムガスと水素ガスは非常に軽量で、熱伝導率がケタ違いに高く、また、ヘリウムガスはイオン化ポテンシャルが飛び抜けて高い、つまり電離しにくい特性があることが判る。炭酸ガスは多原子分子の中でも解離に必要なエネルギーが非常に大きい特徴がある。この様なガスの物性値の違いから、用いるシールドガスによってアーク発生形態が大きく変化することは良く知られている。田中ら2)は、ティグ溶接でのアーク発生形態に及ぼすシールドガスの物性値の影響について、数値計算シミュレーションを用いて以下の様に考察している。図1は、ティグ溶接で良く用いられるアルゴンガスの場合のアーク発生状況のシミュレーション結果である。アーク電流は150A、アーク長は5mmで、水冷銅板とタングステン電極の間にアークが発生している想定である。アークはフレア状に広がり、中心部の最高温度は17000Kにまで達している。

表1 アーク溶接で用いられる代表的なガスの物性値1)


図1 アルゴンガス中でのタングステンアークの温度分布
ならびにプラズマ流速分布のシミュレーション結果2)

図2はヘリウムガスの場合であるが、図1と比較すると、アークは膨らんではいるが、アーク柱の中心部分がより高温化している特徴が見られる。これは、ヘリウムの熱伝導率が高いため、外方向に向かってアークの広がりは助長されるが、ヘリウムは電離し難いガスであり、アーク中心部の高温領域のみにしか十分な電子が存在できないため、アーク電流がアーク中心部に集中して流れ、そのためアーク中心部分が高温化すると考えられている。ティグ溶接でアルゴンガスにヘリウムガスを混合することで、溶け込み深さが増すのは、この理由による。

図2 ヘリウムガス中でのタングステンアークの温度分布
ならびにプラズマ流速分布のシミュレーション結果2)

図3は炭酸ガスの場合のシミュレーション結果である。現実的にはタングステン電極が激しく酸化されてしまうため、あくまで仮想的な検討結果であるが、明らかにアーク柱は緊縮し、アーク中心部分の温度は高温化していることが判る。炭酸ガスは、多原子分子であり、高温になるとCO2 →CO+O, CO→C+Oへの乖離が生じることから、比熱が大きい特徴があり、そのため、熱的ピンチ効果が強いことがその原因と考えられている。

マグ・ミグ溶接では溶滴移行を伴うためアーク現象はより複雑になるが、シールドガスの物性値の違いによるアーク発生形態への影響は、同様な傾向を示す。

図3 炭酸ガス中でのタングステンアークの温度分布
ならびにプラズマ流速分布のシミュレーション結果2)


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