3. 溶接金属性能に及ぼすシールドガスの影響
3.1 溶接金属の化学組成への影響
アルゴン系混合ガス中の炭酸ガス比率が増加すると、炭酸ガスの解離によりアーク柱内の酸素分圧が増加し、溶接ワイヤから供給されるSi、Mn、Tiの一部が酸化により失われるため、溶接金属へのこれらの元素の歩留まりが低下する。その結果、溶接金属の引張強度ならびに降伏強度が低下する。図1516)は炭酸ガスアーク溶接用のソリッドワイヤYGW11(JIS Z 3312)について調べられた結果であるが、炭酸ガス混合比率の減少にともない、強度が上昇していく様子が見られる。YGW11は炭酸ガスアーク溶接用として上記成分の酸化減量を見越して成分設計されたワイヤであり、高アルゴン比率のシールドガスでは、強度過剰となる。逆に、高アルゴン比率用のYGW15の場合、炭酸ガスでの使用は溶接金属の強度不足を招く恐れがある。所定のガス組成と溶接ワイヤとの組み合わせで使用することが推奨される。

図15 溶接金属の強度に及ぼすシールドガス組成の影響16)
もう一つシールドガス組成により大きく影響を受ける成分は溶接金属の酸素含有量である。 図1617)に溶接金属の酸素含有量とシールドガス組成の関係を示す。固体鉄中には酸素はほとんど固溶しないことから、この酸素含有量は酸化物を形成している酸素量と考えて良い。アークプラズマ中で解離した酸素は溶融池に溶け込み、溶接ワイヤから供給されるSi、Mn等による脱酸反応によって酸化物となる。酸化物は比重差によって浮上し、スラグとして分離するが、溶融池内の溶鋼は強攪拌されており、また、浮上分離に十分な時間的余裕がないため、一部は粒状の介在物として溶接金属中に残留する。

図16 Ar+CO2シールドガス中の炭酸ガス量が
溶接金属中の酸素含有量に及ぼす影響17)
図1717)は、図16に対応してシールドガス組成が変化した時の粒状介在物の形成状況を見たものである。炭酸ガスの混合比率の増加にともない、粒径分布曲線が右上の方向、つまり、総個数が増加するとともに平均粒径が拡大していく傾向が見られる。この様に、シールドガス組成の変化に対応して溶接金属の、いわゆる清浄度が変わってくることから、溶接金属性能、特にじん性が影響を受けるようになってくる。詳細は後述する。

図17 溶接金属中に形成される介在物の粒径分布に及ぼす
混合ガス中の炭酸ガス量の影響17)
一方で、炭酸ガスから解離した炭素は、その一部が溶鋼に溶け込む。図1818)はステンレス鋼SUH409Lのマグ溶接において、Ar+CO2混合ガス中の炭酸ガス量が溶接金属の炭素含有量に及ぼす影響について示したものである。Ar+O2混合ガスと比較してAr+CO2では溶接金属の炭素含有量が増加しており、炭酸ガス量の増加と共に増える傾向が見られる。微量の炭素含有量の増加であるが、Cr炭化物の形成やミクロ組織の形成を通して、溶接金属の材質に影響を及ぼす(後述)。

図18 SUH409L鋼の溶接金属の炭素含有量に及ぼす
混合ガス中の炭酸ガス量の影響18)
(溶接ワイヤはY430をベースに安定化元素を添加したSUS430J1Lの成分系の溶接ワイヤを使用)








