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シールドガスのアーク現象、溶接金属性能に及ぼす影響

3.2 低合金鋼の溶接金属のじん性への影響

シールドガス組成は、溶接金属中の酸化物系介在物の形成状況(清浄度)に影響を及ぼし、溶接金属のじん性に大きく影響を与える。

図1919)は、980MPa級高張力鋼溶接金属の場合であるが、シャルピー衝撃試験の0℃での吸収エネルギは酸素含有量の減少に伴い増加している。介在物と共に、溶接金属のミクロ組織もじん性を決める大きな要因であるが、図中のいずれの溶接においてもミクロ組織はマルテンサイトであったことから、酸素量低減によるじん性向上は、破壊の起点となる介在物の減少によるものと理解されている19)図2019)は、シャルピー衝撃試験の破面遷移温度で整理したものであるが、酸素含有量の減少に伴って低温にシフトしていっており、介在物の低減は、延性破壊エネルギと遷移温度の両者に効果があることが判る。

図19 980MPa級高張力鋼溶接金属における吸収エネルギと酸素含有量の関係19)

図20 980MPa級高張力鋼溶接金属の酸素含有量と破面遷移温度の関係19)

一方、強度がもう少し低い溶接金属の場合は、酸化物系介在物がミクロ組織の変態過程にも影響を及ぼすようになるため、必ずしも清浄性が高ければ良いとは限らなくなる。溶接後の冷却途上でオーステナイトからフェライト(γα)への相変態が生じるが、変態はγ結晶粒界や介在物などの不均質部分から始まり易いため、溶接金属に多数形成される酸化物系介在物の形成状況がミクロ組織形成に大きな影響を及ぼす。図2120)γ粒内の酸化物系介在物から変態した微細な針状(アシキュラー)フェライトの例である。この現象を活用して、形成される酸化物組成、量をうまく制御することで、溶接金属の組織を微細化し、じん性の向上が図られているため、行き過ぎた酸素含有量の低減は逆効果になることがある。

図21 酸化物を核として変態したアシキュラーフェライト20)
(再現熱サイクルの冷却途中で急冷し、変態途上を凍結して観察したもの)

図22はシールドガスをAr+0.5〜16%COと変化させ、得られた溶接金属(引張強さが約580〜700MPa)のじん性を調べた結果21)である。酸素含有量が約120ppm以上の範囲では、低酸素ほどシャルピー衝撃試験による破面遷移温度は低下してじん性が向上するが、50ppmになると逆に大きくじん性が劣化している。この理由として、酸素含有量の低減化は破壊の起点となる介在物の減少にはつながるが、過剰な低減はγα変態の核生成サイトとなる介在物数が不足する結果、粗いラス状(上部ベイナイト)組織となったためである21)とされている。[注2]

図22 580〜700MPa級の溶接金属における
破面遷移温度と酸素含有量の関係21)

以上の様に、適切なシールドガス組成を選び、溶接金属の酸素含有量を適正化することで、じん性が改善する可能性はあるが、これはあくまで、溶接金属中に適切なγα変態の核生成サイトが形成されていることが前提である。溶接金属中の酸化物の形成は、溶接金属中の様々な酸化物形成元素の量と酸素量とのバランスで決まるものであって、むやみな酸素量の低減はミクロ組織ならびにじん性の劣化に繋がる危険性があるため、避けるべきである。また、施工面においても、図12で示した溶け込み形状の変化や、図15で示した合金歩留まり、静的強度とも絡むことであり、事前に十分な検討を行うことが必要である。

[注2] 最近の研究22)23)では、形成される酸化物組成を最適化することで、この程度の低酸素域でも微細なアシキュラーフェライト組織が得られることが示されてきている。


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