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ディープラーニングによる初層裏波溶接自動化

株式会社 神戸製鋼所
岡 本  陽

1. はじめに

人工知能(AI)の一つであるディープラーニングとは、ニューロンを何層にもわたってたくさん重ねることで学習精度を上げるように工夫した「ニューラルネットワーク」を用いる機械学習技術のことである。2012年、物体の認識精度を競うコンテストILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)において、ジェフリー・ヒントン率いるトロント大学のSuperVisionチームがAlexNetと呼ばれるディープラーニングを用いて、従来手法に比べ、エラー率を10%も下げ、劇的な進歩を遂げたことがきっかけで、大きな注目を浴びた1)。これ以降、急速に研究が進み、学習のための計算方法の工夫とGPU(グラフィックス プロセッシング ユニット)等コンピュータの計算能力の向上により、深いネットワーク構造でも学習ができるようになったこと、また大規模なデータを扱えるようになったこともあり、画像認識・音声認識・自然言語処理などの領域で急速にディープラーニングは普及した。最新のディープラーニングに代表されるAI技術ではタスクを限定すれば、これまで行ってきた人間の作業を置き換えることも可能になってきている。今後、さらに進化するAI/IoT技術を活用することでDX(デジタルトランスフォーメーション)推進により、製造業への自動化応用を始めとして、ものづくり変革が期待されている。

特に溶接分野において、近年の少子高齢化、若年層の入職率低下、働き方改革(長時間労働是正)等が要因で、近年の溶接技能者不足は深刻である。そのような厳しい環境の中、ものづくりは熾烈なグローバル競争にさらされ良いものを安く作らなければ、生き残れない。品質安定化および生産性向上のためにも溶接技能者に替わる自動化への期待は大きい。溶接現場では溶接ロボットによる自動化の取り組みが従来より行われてきたが、溶接対象の変動や周囲環境の外乱の影響で自動化が難しく、未だに熟練溶接技能者でしか行えない溶接も数多く残っている。例えば、造船分野で使用されるセラミック裏当て有り裏波溶接は、開先形状やギャップ幅等がばらつくことが多く、溶融池状態が変動する。そのため溶接技能者はアークや溶融池の状態を常に監視しながら溶接トーチを運棒させ、適正なビードを形成する必要があり、熟練技能を要し、自動化ができていない。そこで本稿では、「下向セラミック裏当て有り裏波溶接」に焦点を当て、溶融池画像認識に、AI技術のひとつであるディープラーニングを活用し、初層溶接を自動化するための画像認識およびそれに基づくロボット制御技術について開発したので、これを紹介する。


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