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プロセスシミュレーション:
GMA溶接プロセスの溶融池シミュレーション技術と
AMプロセスへの展開

3. シミュレーション結果

図2に示した簡易熱源パラメータを用いて、WAAMプロセスを想定したシミュレーションを行った結果について解説する。

WAAMプロセスにおいて、造形物の形状は多種多様であるため被溶接部の形状はパスごとに変化することとなる。ここでは、数値シミュレーションモデルによる基礎的な検討例として、被溶接物の状態が及ぼす影響について可視化する。図3に動画で示しているのは、被溶接物の幅が変化した際のビード形成過程の変化である。被溶接物の幅がある程度広い場合においては、正常なビードが形成されている一方で、幅が狭い場合においてはこぶ状のビードが形成されている。これは、幅の狭い被溶接部において、投入されたエネルギーが輸送されるスピードが相対的に遅くなるために、溶接部が過度に溶融してしまうことに起因するものと考えられる。

                   

(a) 板幅10mm

(b) 板幅5mm

(c) 板幅2mm

図3 被溶接物の幅がビード形状に及ぼす影響

図4に示すのは被溶接物の幅が変化した際の溶接部近傍における温度履歴の変化である。先ほどの動画において被溶接物の幅が10mmと5mmの場合ではビード形状にほとんど変化がみられなかったが、温度履歴は異なっており、被溶接物の幅が小さいと最高到達温度が大きく、冷却速度が小さいものとなっている。このことから、外観上は同様の結果が得られていたとしても、内部における現象には差が生じうることがイメージできる。


図4 被溶接物の幅が温度履歴に及ぼす影響

次に、図5に示すのは、被溶接物の幅を5mmとして、溶接開始直前の温度を変化させた際のビード形状のシミュレーション結果である。低温の被溶接物に対して溶接を行うと正常なビードが得られていても、溶接開始直前の温度が高い場合においては、こぶ状のビードが形成されている。このことから、造形プロセスにおいてパス間温度を適切に設定することが重要であるということがイメージできる。

                   

(a) 温度400K

(b) 温度700K

(c) 温度1000K

図5 被溶接物の温度がビード形状に及ぼす影響

つづいて、造形プロセスに近い複数層の数値シミュレーションを行った結果について示す。まず、1ビードのシミュレーション結果において重要性が示唆されたパス間の冷却条件の影響について可視化する。ここでは1層1パスの直線形状の造形プロセスを想定し、1パスあたりの造形長は50mm、層数は10とした。パス間の冷却条件として各パスの終了後直ちに次パスの造形を開始する場合(冷却時間0秒)と各パスの造形が終了してから10秒後に次パスの造形を開始する場合(冷却時間10秒)の2パターンを想定した際のシミュレーション結果を図6に示している。なお、カラーマップは温度を示している。冷却時間が短い場合においては造形が進むにつれて、造形物の温度が上昇していることがわかる。それぞれの場合における造形物中心の断面形状を図7に示しているが、パス間の冷却時間が短い場合においては造形物の高さが低く、とりわけ上部において幅が大きくなっている。これは、冷却時間が短いことによって造形物に熱が蓄積された状態となるために、溶融が促進されるためであると考えることができる。

               

(a) 冷却時間0秒

(b) 冷却時間10秒

図6 パス間冷却時間の影響

             

(a) 冷却時間0秒

(b) 冷却時間10秒

図7 パス間冷却時間が造形物断面形状に及ぼす影響

つづいて、造形方向(各パスの溶接方向)が作製される造形物の形状に及ぼす影響について考察する。先ほどと同様に、1層1パスの直線形状の造形プロセスを考えるが、造形方向をすべてのパスで同じ方向とする場合とパスごとに反対方向とする場合の2パターンを考える。なお、造形の方向の影響にのみ着目するために、各パス終了後、造形物の温度を強制的に室温に設定しなおしてから次パスのシミュレーションを行い、パス間の冷却条件の影響を排除している。(このように、数多くある影響因子を選択的に考慮することは、実験では必ずしも容易ではなくシミュレーション技術の強みのひとつであるといえる。)シミュレーション結果を図8に示す。各パスにおける造形方向が同じ場合においては、始端部が大きく盛り上がり、終端部が低くなる造形物形状となっている。一方で、造形方向をパスごとに反対方向とすることによって、作製される造形物の高さがそろったものとなっている。このように各パスの造形方向を適切に設定することが重要であるとイメージすることができる。

               

(a) 各パス同じ方向に造形

(b) 各パス交互方向に造形

図8 造形方向の影響に関するシミュレーション結果(直線造形)

このことを実験的に確認したものを図9に示す。ここで、実験においては1パス当たりの造形長さを100mm、層数を40としており、各パス間で300℃まで冷却している。実験結果はシミュレーション結果と同様の傾向を示していることがわかる。

             

(a) 各パス同じ方向に造形

(b) 各パス交互方向に造形

図9 造形方向の影響に関する実験結果(直線造形)

最後に、1層1パスの円柱形状の造形に対してシミュレーションモデルを適用した結果について示す。ここでは直径30mmの円を描くように熱源を移動させ、層数は10とした。ここでも、積層方向の影響について考察するために、各パス造形方向が同じ場合および各パス造形方向を反対とする場合の2パターンについて考える。なお、各パスにおいて造形の開始位置は同じ位置であるとし、パス間の冷却条件の影響を排除するために、各パス終了後に造形物の温度を室温で上書きしている。シミュレーションによって得られた積層物形状を図10に示す。この図からわかるように、造形方向を同じとした場合、造形開始位置においてふくらみを有する形状となっている。一方で、造形方向をパスごとに反対とした場合では高さのそろった造形物が得られている。このことから、円柱形状の造形においても、各パスの造形方向を適切に設定することが重要であるとイメージできる。実験的に確認したものを図11に示すが、同様の傾向を示している。なお、実験においては、直径50mmの円を描くように溶接トーチを移動させており、層数を40としており、各パス間で300℃まで冷却している。

               

(a) 各パス同じ方向に造形

(b) 各パス交互方向に造形

図10 造形方向の影響に関するシミュレーション結果(円筒造形)

               

(a) 各パス同じ方向に造形

(b) 各パス交互方向に造形

 

図11 造形方向の影響に関する実験結果(円筒造形)


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