4. おわりに
本稿では、著者らが構築したGMA溶接の溶融池シミュレーションモデルをWAAMプロセスへと展開し、造形条件がプロセスのアウトプットのひとつである造形物の形状に及ぼす影響について可視化した例を示した。実験結果との比較の結果、よく似た傾向を示していると考えているが、実験とシミュレーションのスケールは一致していないため、あくまで定性的に造形条件の影響が及ぼす方向性をイメージできるレベルであるといえる。本稿で紹介したシミュレーションモデルは「造形条件を作りこむためのツール」というよりは「まず造形条件のあたりをつけるためのツール」というレベルにあると考えている。
WAAMプロセスの実用展開を進めるためには、そのプロセス前後の試行錯誤を排除し使い勝手の良さを向上させるとともに、作製された構造物の形状のみならず特性・性能をコントロール可能なものとすることが不可欠である。そのためには、本稿で紹介した造形プロセスシミュレーションによる可視化だけでなく材料科学・材料力学の知見との融合、また、膨大な知見から必要な情報を取り出すためのデータ科学との連携などが今後の検討として必須である。
金属材料の溶融・凝固といった現象を利用して構造物を作りあげる積層造形プロセスは、溶接プロセスと本質的に同様のものであり、その知見を活用することが重要であることはいうまでもない。これまでに溶接分野に蓄積された基礎基盤となる知見を、専門分野の垣根を越えて共有・融合させることが、新たなブレークスルーを生むものと期待される。
< 参考文献 >
[1] 荻野陽輔:“ここまで見える!アーク溶接の可視化シミュレーション (1)溶接アークと溶融池形成シミュレーション”、WE-COMマガジン、27(2018)
[2] 荻野陽輔、高部義浩、平田好則、浅井知:“継手形状・溶接姿勢を考慮した3次元溶融池モデル”、溶接学会論文集、35(2017)、1、13-20
[3] Y. Ogino, S. Asai and Y. Hirata: “Numerical simulation of WAAM process by a GMAW weld pool model”, Welding in the World, 62 (2018), 393-401
[4] 荻野陽輔:“GMAW溶融池モデルを活用したワイヤ−アーク金属積層造形シミュレーション
[5] C. W. Hirt and B. D. Nichols: “Volume of Fluid (VOF) method for the dynamics of free boundaries”, Journal of Computational Physics, 39 (1981), pp. 201-225
< 略 歴 >
荻 野 陽 輔 (おぎの ようすけ) |
2014年3月 大阪大学大学院 工学研究科 マテリアル生産科学専攻 博士後期課程 修了 博士(工学)取得 2014年4月〜2015年11月 大阪大学大学院工学研究科 特任助教 2015年11月〜2021年9月 大阪大学大学院工学研究科 助教 2021年10月〜 大阪大学大学院工学研究科 准教授 現在に至る |