相談例68.低合金鋼鋼管 ティグ溶接による裏波溶接時のバックシールド要否
ボイラ・熱交換器用合金鋼鋼管STBA24(2.25%Cr-1%Mo)をティグ溶接により裏波溶接します。STBA24鋼 の裏波溶接ではビードの酸化を防止するためにバックシールドが必要と考えていましたが、低Cの2.25%Cr-1%Mo鋼用の溶接材料を使用すればバックシールド゙が不要になると聞きました。STBA24鋼を裏波溶接する際のバックシールドの要否に対するC量の影響とその根拠について教えてください。
回答
裏波溶接時のバックシールドの要否は、C量ではなく酸化されやすい合金元素(主にCr)量で決まります。たとえば1%Cr 鋼では、バックシールドは不要ですが、2.25%Cr 鋼はバックシールド゙要否の境界にあります。普段からSTBA24 の裏波溶接にバックシールド゙を適用されているのならば、低Cの溶接材料を使用した場合にもバックシールド゙は必要と考えます。なお、API 582 Sec.7 Shielding and Purging Gas では、2.25%Cr 鋼まではGTAW/GMAW 共にバックシールドは不要とされています。
バックシールド゙要否の境界という意味について原理から説明します。図21)はバックシールドなしでティグ溶接した際の裏波ビード断面の例です。図a)に示すようにCr 含まない鋼では裏波ビードの表層に緻密な酸化物層ができて外観が美麗な裏波が形成されます。しかし図b)、c)に示すように2.25%Cr鋼や18%Cr 鋼では鋼中のCrが酸化され、裏波ビードの表層には多孔質な酸化物層ができて外観不良゙になります。なお、SiはCrより優先的に酸化されるので十分な量があれば鋼の表面にバリア層を形成することで、鋼中のCrの酸化が遅れ、結果として多孔質なCr酸化物層の生成を抑えられます。従って、図d)のように0.5%Siの場合には、2.25%Cr鋼でも美麗な裏波ができます。しかし、18%Cr 鋼のようにCr量が多い場合には0.5%Siでは十分なバリア層ができないので、図e)に示すように多孔質な酸化物層ができて外観不良となります。

図2 裏ビード断面のSEM観察像
(参考文献)
1)平田弘征,小川和博,溶接学会論文集,19(2001), 610