相談例69.部分溶込み溶接に関しての注意点
部分溶込み溶接に関して、許容応力に基づく設計から施工まで注意点を含めてご教示願います。
回答
(1) 必要理論のど厚の設定
次式のように、荷重条件と許容応力から継手に必要なのど断面が求められます。
必要のど断面積=荷重/許容応力
通常許容応力はせん断許容応力が適用されます。
また、のど断面積は次式のようになります。
のど断面積=理論のど厚x有効溶接長
有効溶接長とは、理論のど厚が確保される全溶接長です。
理論のど厚は、採用しなければならない規準などに依存します。
(2) 理論のど厚について
① 鋼構造設計規準
健全な部分溶込み溶接の形態は、図3に示すように開先部まで溶け込んでいるか、開先深さよりもさらに溶け込んでいるかの2種であります。
鋼構造設計規準では、基本的には図3(a) のように開先よりも深く溶け込んでいても開先深さを理論のど厚としますが、レ形やK形開先の被覆アーク溶接では、開先底部に溶込み不良やスラグ巻込みなどの溶接欠陥の発生が危惧されますので、
理論のど厚=開先深さ−3 (mm)
とします。当然、レ形K形の被覆アーク溶接以外はこのように3 mm減じる必要はありません。
念の為ですが、K形の場合は表裏面の合計開先深さから6 mm減じた値が理論のど厚となります。
![]() |
![]() |
(a) |
(b) |
図3 部分溶込み溶接の模式図
② 道路橋示方書
鋼構造設計規準とは異なり、溶込み深さを理論のど厚とします。
③ AWS
鋼構造設計基準のレ形やK形開先で3 mm減じたようにAWS D1.1に溶接法ごとに、断面欠損相当値を溶接法別に規定しています。
(3) 溶込み深さや開先深さの溶接記号による指示
設計上の理論のど厚が求められると、開先深さや溶込み深さを図面に記載して施工現場指示しなければなりません。この場合溶接記号を用います。現在溶接記号では、溶込み深さを溶接深さと呼んでいます。以降、溶接深さとします。
部分溶込み溶接での記号で特徴的なのは、溶接深さを( )でくくるところです。例を図4に示します。
図4に示しますように、溶接深さを( )でくくり、開先深さに続けて記入します。開先深さと溶接深さが同じ場合は、開先深さを省略してもよいことになっています。
![]() |
![]() |
(a) 開先深さと溶接深さが異なる場合 |
(b) 開先深さと溶接深さが同じ場合 |
図4 部分溶込み溶接の場合開先深さと溶接深さ
なお、図5のように( )がないと完全溶込み溶接となります。注意が必要です。

図5 完全溶込み溶接の場合
(4) 部分溶込み溶接の場合の溶接施工上の留意点
① 部分溶込み溶接の場合開先底部のルート部が十分溶融し、スラグ巻込みやブローホールなどの欠陥のないように溶接されていなければなりません。よって、指示される溶接深さに適した開先形状・寸法と溶接法の選択が重要で、実績のない場合は事前に溶接施工法試験などで、ルート部を含めた溶接部の健全性確認が必要です。
② 部分溶込み溶接以外も含めてだが、溶接変形を極力抑制するように溶接しなければなりません。すなわち、溶着量を最小にすることは基本であるが、片面側の部分溶込み溶接では、角変形発生が危惧されます。角変形を極力抑制するような開先形状や溶接法・パス数を設定する必要があります。