大阪大学 接合科学研究所
水谷 正海
1. はじめに
アーク放電による熱を利用して母材を溶融させるアーク溶接は、種々な産業分野で広範囲に使用されており、中核をなす溶接法である。例えば、よく建築現場で目にする被覆アーク溶接(手棒溶接)、機械や大型構造物の作製時に用いられる高能率なMIG・MAG溶接、さらに高品質継手を作製するためのTIG溶接等応用範囲が広い1)、2)、3)。
一方で、アーク溶接時には、強烈で有害な光線が発生するためにアーク溶接挙動を裸眼で直視することは、絶対に避けなければならず、作業者は溶接面を着用し、その遮光ガラス越しに溶融池を覗き、アーク、溶融池、さらに溶接ワイヤー等の挙動について、情報を得ている4)。これらの視覚情報を普遍化して共有、さらに教育・研究に役立てていくことがものづくりにおける技術の伝承と高度化のために必要であり、このようなアーク溶接挙動を静止画はもとより、動画として記録できることが望ましい。
幸い、最近では、民生用ビデオカメラやデジタルカメラ付属の動画機能でさえ、高画質化がすすみ、うまく工夫すれば、比較的安価で溶接現象を撮影・記録することが可能になってきている。さらに、産業・研究用ビデオカメラにおいては、高速度化、高ダイナミックレンジ化がはかられている。特に、高速度カメラにおいては、撮像素子の進歩により撮影感度、輝度分解能および空間解像度がますます向上しており、搭載メモリの大容量化により録画時間の長時間化も達成されている。
このように、身近になり、高性能化が図られているビデオカメラであるが、実際にアーク溶接の撮影に用いる場合、いくつかの前提知識やノウハウが必要となる。本稿では、論文で記述される実験方法的な説明よりも、むしろ、学生と実験をしながら構築されたアイデアなどの実例を交えながら、実験研究現場ですぐに役立つ実践的な勘どころについて述べる。
2. ビデオカメラ選択のポイント
2.1 カラー/白黒
カラービデオカメラには、通常可視光以外をカットするフィルターが内蔵されているが、アーク溶接の撮影時には、念のために強い紫外線と赤外線を防止する目的で紫外(UV)カットフィルター・赤外(IR)カットフィルターを使用した方がよい。また、アーク光は、カラービデオカメラに対して高輝度過ぎることが多く、NDフィルターが必要である。
白黒ビデオカメラには、撮像素子が近赤外まで感度を持つものが多く、素子の前面に予めIRカットフィルターが装着されているものと、されていないものがある。
最近注目を集めている近赤外域での溶接現象の撮影5),6),7)では、IRカットフィルターのないものを選択する必要がある。その上で、ある特定範囲の波長の光だけを透過させるバンドパスフィルター(干渉フィルター)を用いる。アーク自身の観察においては、アーク光中の特定元素の輝線だけを透過させたり、逆にアーク光の輝線を避けて、溶融池の熱放射光だけを透過させるようなフィルターの使い方が非常に有効である。なお、IRカットフィルター付のモデルであってもメーカーに相談すれば取り外して貰うことが可能な場合がある。さらに、自己責任でフィルターを取り外すことも可能であるが、メーカーサポートが得られなくなるため推奨はしない。