6.3.2 ヒュームの化学組成
ヒュームの化学組成の一例を表6.2に示します。
ヒュームの組成は,蒸発過程に支配されます。融液中において蒸気圧の高い成分は,ヒューム中に多く含まれるようになります。したがって,ヒュームの組成は,溶接材料や母材中に含まれる成分から成立つものの,元の組成とはかなり異なるものとなります。例えば,酸化チタン(TiO2)は高温での蒸気圧が低いため,被覆剤にそれを多く含む溶接棒であっても,ヒューム発生量の値は低くなります。一方,酸化ナトリウム(Na2O)および酸化カリウム(K2O)は蒸気圧が高いので,ヒューム中に多量含まれるようになります。
炭酸ガスアーク(CO2)溶接に用いられるソリッドワイヤは,フラックスを用いていないので,高温蒸気発生源の融液中で約98%を占めるFe(鉄)が,ヒューム中でも75〜80%含有されています。一方,融液中には1%前後しか存在しなかったSi(シリコン)およびMn(マンガン)は,ヒューム中に10〜15%も占めるようになります。
フラックス入りワイヤでは,ワイヤ中に含まれるFe量が80〜90%ですが,フラックス成分の影響により,ヒューム中の含有量は約50%程度にまで低下するようになります。また,被覆アーク溶接棒のイルミナイト系(E4319),ライムチタニヤ系(E4303),高酸化チタン系(E 4313)および鉄粉酸化鉄系(E 4327)溶接棒は,酸化鉄含有量がそれぞれ40〜50%ですが,低水素系(E 4316)溶接棒はNa2O(酸化ナトリウム),K2O(酸化カリウム) およびF(フッ素)の影響を受けて20%以下にまで低下します。
表6.2 ヒュームの化学組成(一例)
[軟鋼・50kg/mm2級高張力鋼用溶接材料]
| 溶接 方法 |
溶接材料 の種類 |
化学成分 % | |||||||||
| Fe2O2 | SiO2 | MnO (Mn) |
TiO2 | Al2O3 | CaO | MgO | Na2O | K2O | F | ||
| CO2 アーク |
YGW11 ソリッド (AL,Ti入り) |
76.5 | 9.0 | 11.1 (8.6) |
0.4 | 0.2 | − | − | − | − | − |
| YGW12 ソリッド |
77.8 | 10.8 | 9.9 (7.7) |
− | − | − | − | − | − | − | |
| T490T1- 1CA-K-U フラックス 入り |
48.8 | 10.5 | 16.3 (12.6) |
10.0 | 2.6 | 0.9 | 1.0 | 5.2 | 0.7 | 2.8 | |
| 被覆 アーク |
E4319 | 52.6 | 16.6 | 12.2 (2.4) |
2.3 | 0.4 | 2.1 | 0.5 | 5.6 | 5.0 | − |
| E4303 | 48.3 | 21.2 | 6.2 (4.8) |
1.9 | 0.4 | 1.5 | 1.3 | 5.7 | 7.7 | − | |
| E4313 | 41.8 | 29.5 | 5.4 (4.2) |
3.4 | 0.5 | 1.0 | 0.3 | 5.6 | 7.6 | − | |
| E4316 | 16.9 | 6.2 | 5.1 (3.8) |
0.5 | 0.3 | 14.1 | 0.4 | 10.2 | 19.6 | 17.1 | |
| E4327 | 47.2 | 31.6 | 7.8 (6.1) |
1.2 | 0.3 | 1.2 | 0.2 | 4.7 | 3.3 | − | |
なお,ステンレス鋼の溶接の場合,発生するヒュームには表6.2の成分以外にCr(クロム),Ni(ニッケル)などの成分が含まれるようになります。(表6.3参照)
表6.3 ステンレス鋼ヒューム中のCr及びNi含有量(一例)
| 溶接方法 | CO2アーク | 被覆アーク | ||||||
| 溶接材料 の種類 |
YS309 (ソリッド) | ES308-16 | ||||||
| 溶接材料 の種類 |
T.Cr | Sol.Cr (?Y) | T.Ni | Sol.Ni | T.Cr | Sol.Cr (?Y) | T.Ni | Sol.Ni |
| 化学成分 % |
13.3 | 0.07 | 5.4 | 0.04 | 5.0 | 3.5 | 0.6 | 0.02 |







