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第2回

相談例4.マグ溶接でのシールドガスの変更

現状は半自動溶接でシールドガスとしてCO2を使用しています。シールドガスを混合ガスに変更したいと考えていますが、当然、ガスの単価は大幅に上がります。溶接速度、溶着効率、溶接外観仕上がり等から考え、全体としてコストダウンは可能でしょうか。多層盛りでない場合には効果はあると考えますが、多層盛りではどうでしょうか。

回 答

ガスメーカで試算したコスト比較データによると、溶接作業時間とビード清掃作業の大幅な低減によって、総コストは20%近く低減できるとしています。またファブリケータのデータでは、スパッタの除去作業などの後処理作業の時間低減がコスト低減に大きく寄与することが示されています。しかし、この種の施工上のコストは、要求品質、ファブリケータの諸々の条件等で変化するため、定量的に評価することは難しいものです。

定性的な面でコストに大きく影響する事項としては、次のようなものがあげられます。

① スパッタ除去・ビード清掃の工数。 例えば1パスCO2溶接の場合、スパッタを完全に除去するには溶接時間とほぼ同程度の工数を要しますが、マグ溶接の場合はこの工数を大幅に削減できます。但しスパッタの母板への付着の程度(数、付着力)は、母板の表面状態(黒皮、プライマ等)で大幅に変わります。また製品によっては、スパッタ除去の許容度が異なります。
これらのことは、施工される御社で判断下さい。なお多パス溶接の場合には、相対的に溶接時間は増えますが、スパッタの除去・ビード清掃の時間は1パス溶接の場合とそれほど変わりません。

② 混合ガスを使用するメリットの一つに、スラグが少ない(ビード全面に被らない)ことがあります。単純にスラグ除去に時間を要さないこと以外に、スラグを除去しなくても容易に再アークできるため、能率向上に寄与します。

③ ワイヤの価格は、大差がないか、やや高くなる程度でしょう。ガスのコストは高くなりますが、施工上のコスト差に比較すれば決定的なことにはならないと思います。

以上、種々の条件を勘案して、判断されるようお勧めします。

なおマグ溶接でのシールドガスの変更時には、次のような事項に留意しなければならないことも忘れないようにして下さい。

(1) 溶接ワイヤはシールドガスの組成に応じて設計されています。CO2ガス用ワイヤ(JIS YGW11、YGW12など)に添加されているSiとMnの量は、混合ガス用ワイヤ(JIS YGW15、YGW16など)に比べて多いため、CO2ガス用ワイヤを混合ガスで使用すると、溶接金属中に必要以上のSiとMnが残留して、強度上昇やじん性低下を招く恐れがあります。マグガス(Ar+20%CO2)中に含まれるCO2量は100%CO2の5分の1しかないためです。現在使用中のCO2ガス用ワイヤを混合ガスで使用する場合には、溶接金属の機械的性質で問題が生じないかを十分にチェックすることが必要です。

(2) 混合ガスの場合の溶込みでは、中央部の溶込みはそれほど変化しませんが、ビード止端部近傍の溶込みはCO2量の減少にともなって減少します。溶込み不良などを防止するために、ウィービング幅を広げる、狙い位置の精度を向上させるなどの対策が必要です。

(3) CO2には、高温になるとCOとOに解離して熱を奪うという性質があります。この性質はトーチの冷却に大きく寄与しており、CO2量が少ない混合ガス溶接でのその冷却効果は当然減少し、トーチの温度はCO2溶接の場合より高くなります。その結果トーチの定格容量は60%程度まで低下し、例えば350A・60%のCO2溶接用トーチを混合ガス溶接で使用すると、その定格は200A・60%程度まで低下することとなります。

(4) CO2に比べArのアークを維持するエネルギーは比較的少ないので、混合ガス溶接での適正アーク電圧はCO2溶接の場合より1.5〜2V程度低くなります。適正溶接条件についての見直しも必要です。


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