LAST UPDATE 2014/1/21
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1.4 必要予熱温度の推定  |
以下の文献記載の方法に基づく。
N. Yurioka and T. Kasuya: "A chart method to determine necessary preheat in steel welding"
Welding in the World, vol. 35 (1995), p327-334
または、
溶接選書10。「鉄鋼材料の溶接」 産報出版(1999), p.163
低温割れ防止のための予熱はアーク溶接時に溶接金属に溶解した拡散性水素の放出を目的に
実施する。低温割れは以下の因子に影響を受ける。
1) 鋼の化学組成
2) 板厚、管厚
3) 溶着金属拡散性水素量
4) 溶接入熱
5) 溶接金属降伏強さ(残留応力)
6) 継手拘束
7) 開先形状(部分溶け込みの場合のみ、応力集中係数)
8) パス(単パスか多パスか)
9) 予熱方法(加熱速度、予熱幅)
本方法は上記要因のほとんどを考慮している。
1) 鋼材の化学組成
溶接割れ(低温割れ)感受性を評価するとして、次の炭素当量が長年用いられてきた。
比較的C量の高い(C>0.15%)鋼材の溶接性を評価すると考えられている。
CE(IIW) = C + Mn/6 + (Cu + Ni)/15 + (Cr + Mo + V)/5
この炭素当量は溶接焼入れ性(マルテンサイトになり易さ)を表す。小入熱溶接時の熱影響部硬さは
焼入れ性とC量(マルテンサイトの硬さを決定する)の両者の関係で決定され、C量が低下するにつれ
硬さに及ぼす焼入れ性の影響度が低下する。すなわち、C量の影響度が増す。以下の炭素当量は
この相互効果を考慮しており、広い範囲の鋼材の溶接性を評価できると考えられ、本法はこの炭素
当量を用いて必要予熱温度を求める。
CEN = C + f(C) { Si/24 + Mn/6 + Cu/15 + Ni/20 + (Cr + Mo + Nb + V)/5 }
f(C) = 0.75 + 0.25 tanh { 20 (C - 0.12) }
f(C) はCが低減するとともに1。0から0。5に低下する。C量が0。15%以上ではCE(IIW)とほぼ同じ
値となる。
CEN炭素当量は ASTM A 1005/A 1005M-00に規定されている。
2) 溶着金属拡散性水素量
高温のアークの作用で溶接金属に過飽和に溶解した拡散性水素量は低温割れに対する重要な因子
の一つである。低温割れ防止の限界予熱温度は水素量の対数にほぼ比例する。すなわち、水素量
の低温割れに及ぼす影響は低水素域で著しく、高水素域ではその影響度は低い。本法はこの事実を
考慮している。
低水素系溶接材料の使用は低温割れ防止の観点から非常に望ましい。その際、開先の錆、溶接材料
の吸湿などによる水素量の増加に特に注意する必要がある。なぜなら、低水素域では水素量の影響が
顕著だからである。
各種溶接法の溶着金属拡散性水素量の例を示す。:
ルチール系被覆アーク溶接棒 : 30ml/100g
セルローズ系被覆アーク溶接棒 : 60ml/100g
低水素系被覆アーク溶接棒 : 5 - 7ml/100g
極低水素系被覆アーク溶接棒 : 2 - 5ml/100g
ティグ、ソリッドワイヤガスシールドアーク溶接法 : 2ml/100g
フラックス入りワイヤガスシ?ルドアーク溶接法 : 6 - 10ml/100g
シームレス型フラックス入りワイヤガスシールドアーク溶接法 : 2 - 4ml/100g
サブマージアーク溶接 : 2 - 7 ml/100g
3) 継手の拘束
継手の拘束が高いほど低温割れは発生し易いと思われているが、継手拘束が弱くてそのために回転
変形が生じルート部に曲げ応力が高まり低温割れが促進されることがある。そのため、本法は継手拘
束は考慮しない。ただし、y開先拘束割れ試験のようなスリット部を溶接する場合、あるいは補修溶接
の場合は予熱温度を高めることを本法は要求している。
4) 開先形状
低温割れはK開先やX開先で最初の溶接側のルート部に発生しやすい。両側開先溶接においては、
バック側の溶接を始める時にガウジング後にこのルート割れ発生を検査するのが通常である。両側開
先多層溶接では、したがって、ルート割れよりもトウ割れが問題である。V開先のような片側溶接にお
けるルート割れ発生の感受性は、応力集中の高いX開先やK開先のルート割れよりも遙かに低い。
そのために、本方法は開先形状を予熱温度決定の要因として考慮していない。
Y開先やレ開先の部分溶込み溶接では、ルート割れの検出がなされないので、y開先拘束割れ試験
の予熱温度を採用しなければならない。
5) 溶接パス数
多パス溶接において、ルートパス溶接部の水素も残留応力も後続のパスの加熱効果で低減する。
したがって、多パス溶接部ルート割れ感受性は単パス溶接部ルート割れのそれよりも低い。
本法は最初にy開先拘束割れ試験でのルート割れ防止の必要予熱温度を与える。y割れ試験はノッチ
応力集中係数が高く、冷却速度の速いショートビードでかつ単パスで、さらに拘束度も高い。すなわち、
非常に厳しい割れ試験方法である。本方法は溶接長の長い通常の多パス溶接時の必要予熱温度を
与える。この温度はy割れ試験ルート割れ防止の予熱温度よりかなり低い。
6) 溶接残留応力
本法は引張り溶接残留応力を考慮している。溶接残留応力のピーク高さは溶接金属の降伏応力に
近いと考えられる。溶接施工の経験から、高強度鋼になるほど多パス溶接熱影響部にトウ割れとビ
ード下割れ、および溶接金属の横割れが発生しやすくなるとされている。したがって、鋼材の強度が
高まるほどそして溶接金属の降伏強度が高まるほど、本法の与える必要温度はy割れ試験からの
予熱温度からの下げ幅が少なくなったものとなっている。即ち、下げ幅はYP360級鋼では75度Cで、
YP700級鋼では0度Cである。
なお、溶接金属降伏強度は不明である場合は、鋼材の最小規格降伏強度を用いる。
7) 予熱方法
溶接部から水素を放出させる目的の予熱は、予熱幅が広く予熱の加熱速度が遅いほど、その効果
は高い。加熱幅は開先の両側それぞれ200mmm以上が望ましい。急速加熱で局部加熱の予熱では
予熱温度を高めねばならない。
8) 外気温度
低温割れに及ぼす外気温度の影響は著しい。本法は外気温度を10度C前後を対象にしている。
外気温度が0度C以下の場合の予熱温度の選定に関しては以下の文献が参考になる。
T. Kasuya and N. Yuiroka: "Determination of necessary preheat temperature to avoid cold cracking under various ambient temperatrues", ISIJ International, vol. 35 (1995), No.10, p.1183-1189
9)直後熱
直後熱は水素放出に非常に効果がある。必要予熱温度が高すぎる場合は後熱を併用すべきである。 以下は直後熱条件の一例である。
150 degC for 95 hrs, or 200 degC for 29 hrs, or 250 degC for 12 hrs, or 300 degC for 2 hrs. |
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