JFEスチール株式会社
スチール研究所 接合・強度研究部
池 田 倫 正
1. はじめに
自動車ボディの製造には、抵抗溶接、アーク溶接、レーザ溶接、ブレージング、摩擦撹拌点接合、接着、機械的接合など実にさまざまな接合技術が適用されており、接合部に対する要求性能により使い分けがなされている。中でも、抵抗溶接は最も多く使用される溶接方法であり、自動車の生産性向上、品質安定化に大きく貢献している。抵抗溶接は、溶接部分に大電流を流すことで発生する抵抗発熱を利用した溶接方法であり、かつ非常に短時間で施工できるため、他の溶接技術と比較して低コスト化、高能率化が可能であり、自動車ボディの大量生産に適合した技術といえる。
自動車製造に適用される抵抗溶接は、さらに、スポット溶接、プロジェクション溶接、シーム溶接などに分けられる。自動車ボディは、主に薄板をプレス加工した部材を抵抗スポット溶接することによって組立てられており、車種によって異なるが1台当たり3000~6000点ものスポット溶接箇所がある。抵抗スポット溶接の原理そのものは非常にシンプルであるが、自動車を取り巻く環境の変化にあわせて多くの技術開発がなされた結果、溶接技術として大きく進歩してきた。特に、溶接ガンを搭載した多関節ロボットの導入以降は、トランスとガン間の2次ケーブル削除、インバータ電源によるトランス軽量化、オフラインティーチング、打点毎の溶接条件設定及び一括管理、電動加圧式ガンなど、多くの技術が実用化されている。
一方、自動車ボディに用いられる材料としては、車体の軽量化(燃費低減)、高強度化(衝突安全性向上)を目的に、高張力鋼、アルミニウム合金、樹脂など種々の材料がこれまで検討されてきている。しかし、コストパフォーマンスの観点からは依然として鋼が主要材料とされ、既に、引張強さ1470MPa級高張力鋼板など各種高機能高張力鋼板も開発されている。最近では、ボディ用材料として1180MPa級鋼板の実用化も進んでおり、溶接対象となる自動車用高張力鋼板は、今後さらに高強度化する傾向にあるといえる。高張力鋼板の抵抗スポット溶接においては、まず、適正溶接条件の選定が重要なポイントとなる。次に、高張力鋼板をより有効に自動車ボディに適用するためには施工方法の検討も重要である。特に、三枚重ね溶接での板厚違いの課題を克服できる溶接方法、高張力鋼板のスポット継手強度の安定確保のための溶接方法は重要となってきている。
以上のような背景から、本稿では、自動車ボディの最近の抵抗溶接技術として、まず、高張力鋼板の抵抗スポット溶接継手強度の推定式について紹介し、さらに、高張力鋼板をより有効に適用していくために必要となる三枚重ね抵抗スポット溶接技術及び継手強度向上抵抗スポット溶接技術について紹介する。